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令和6年(2024年)問5|債務不履行

履行遅滞に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1.不法行為の加害者は、不法行為に基づく損害賠償債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

2.善意の受益者は、その不当利得返還債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

3.請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

4.債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。


【答え:2】


1.不法行為の加害者は、不法行為に基づく損害賠償債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

1・・・ 誤り

不法行為に基づく損害賠償債務は、加害者が損害を引き起こした時点で、その責任が発生します。つまり、損害が発生した時点で、加害者は履行遅滞に陥ります。よって、本肢は「履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」という記述が誤りです。

不法行為による損害賠償債務は、債務者が履行を求められる前に、損害の発生と同時に遅滞が生じるため、別途「履行の請求」を待つ必要はありません。言い換えれば、加害者はすでに損害が発生した段階で遅滞していると見なされます。

これは最高裁判決で示された考え方で、損害賠償債務が発生した瞬間に遅滞が生じ、催告をしなくても遅延責任を負うことが確認されています。


2.善意の受益者は、その不当利得返還債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

2・・・ 正しい

不当利得とは、法律上の正当な理由がなく他人から得た利益のことです。その場合、その利益を返還する義務があります。この義務は、返還するために請求を受けた時から遅滞の責任が生じるという点がポイントです。

そして、善意の受益者とは、不当利得を得たことを知らない人です。善意の受益者に対する返還請求は、履行期の定めがない債務として扱うので、返還を求められた時点から遅滞の責任を負うことになります。つまり、返還請求があった時から返還を遅らせた場合、遅延損害金が発生します。よって、本肢は正しいです。

一方、悪意の受益者は、不当利得を得たことを知っていた場合です。悪意の受益者の場合、返還の遅滞責任は、利益を受け取った時点から遅滞責任を負います。さらに、「利息をつけて返さなければならず」、損害があればその賠償も責任を負います(民法704条)。

 


3.請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

3・・・ 誤り

まず、「注文者が請負人に報酬を支払う義務」と、「請負人が提供する目的物(仕事)の品質に関する責任(目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償)」が同時に履行されるべきです。つまり、同時履行の関係にあります。
そして、本肢では、注文者は、請負人の報酬債権に対して、瑕疵修補に代わる損害賠償債権を相殺する意思を示しました。つまり、注文者は請負人に対して支払う報酬の一部を、請負人が瑕疵修補をしなかったことに基づく損害賠償として差し引こうとしています。

このように相殺の意思表示をした場合、報酬の残額について、注文者がその支払いを遅滞するかどうかが問題になります。

重要なポイントは、相殺の意思表示をした時点で、注文者は残りの報酬の履行義務が生じ、その履行が遅れると遅滞責任を負うことになるという点です。
よって、本肢は「請求を受けた時から」が誤りです。正しくは、「相殺の意思表示をした時」です。

【なぜ「請求を受けた時」ではなく「相殺の意思表示をした時」から遅滞責任が始まるのか】

最初に誤解を招きやすい点は、遅滞責任が「請求を受けた時から始まる」という考えです。
しかし、実際には、相殺の意思表示をした時から注文者は報酬の残額を支払う義務を負うため、遅滞責任は「相殺の意思表示をした時」から始まります。

相殺によって、注文者は瑕疵修補に代わる損害賠償債権を報酬債権に対して差し引くことができますが、その結果、残りの報酬の支払い義務が確定します。
そのため、相殺の意思表示をした時点から遅滞責任が生じるのです。


4.債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

4・・・ 誤り

不確定期限の債務とは、具体的な期限は決まっていないけれども、その出来事が確実に起こることで履行の期限が決まるものです。例えば、「父が死んだら、土地を渡す」とか、「次に総理大臣が変わったら、支払いをする」といったようなものです。つまり、いつ履行すべきかは未確定ですが、その出来事が起こったときに履行の義務が生じます。

そして、不確定期限がある場合、債務者が遅滞責任を負うタイミングは以下の通りです。

  1. 期限の到来を知った時
  2. 履行の請求を受けた時

この2つのタイミングのうち、早い方から遅滞責任が発生します。

そして、問題文は、「債務者は、期限の到来を知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」と述べていますが、これでは遅滞責任が発生するタイミングが正しく表現されていません。

正確には、債務者は期限の到来を知った時、または履行の請求を受けた時のいずれか早い時点から遅滞の責任を負うことになります。

「履行の請求を受けた時」という記述がないので、誤りです。


令和6年・2024年の宅建過去問

問1
法律関係
問2
委任契約
問3
共有
問4
民法総合
問5
債務不履行
問6
地上権
問7
民法総合
問8
民法の条文
問9
承諾
問10
契約不適合責任
問11
借地権
問12
借家権(建物賃貸借契約)
問13
区分所有法
問14
不動産登記法
問15
都市計画法
問16
都市計画法(開発許可)
問17
建築基準法(建築確認)
問18
建築基準法
問19
盛土規制法
問20
土地区画整理法
問21
農地法
問22
国土利用計画法
問23
所得税(住宅ローン控除)
問24
不動産取得税
問25
不動産鑑定評価基準
問26
重要事項説明
問27
営業保証金
問28
報酬計算
問29
宅建士
問30
クーリングオフ
問31
監督処分
問32
媒介契約
問33
広告
問34
手付金等の保全措置
問35
契約書(37条書面)
問36
保証協会
問37
35条書面
問38
免許
問39
案内所
問40
契約書(37条書面)
問41
35条書面
問42
死に関する告知
問43
宅建士
問44
契約書(37条書面)
問45
住宅瑕疵担保履行法
問46
住宅金融支援機構
問47
不当景品類及び不当表示防止法
問48
問49
土地
問50
建物