営業保証金
宅建業者は、不動産取引をしたり、消費者の不動産取引の仲介をしたりします。その取引の中でトラブルが生じると、高額な損害が発生することもよくあります。そんな中で宅建業者が損害を賠償するだけのお金を持っていなかったら、消費者は大きな損失を被ることになります。そこで、宅建業法では、「営業保証金制度」と「保証協会制度」を設けています。
「営業保証金制度」と「保証協会制度」を簡単に言うと、「万一のトラブルに備えて一定金額のお金を、供託所に預けておきましょう!」ということです。このページでは、営業保証金制度に焦点を当てて解説していきます。
営業保証金の供託
供託とは?
国の機関である法務局に「供託所」というところがあります。ここにお金を預かってもらうことを供託といいます。宅建ではこれくらいのイメージでよいでしょう。
供託すべき額
主たる事務所(本店):1,000万円
従たる事務所(支店):1ヶ所あたり500万円
例)本店と支店2ヶ所持つ宅建業者の場合、1000万円+(500万円×2)=2000万円を供託所に供託しなければならない
【注意】
「案内所」は事務所ではないので、供託すべき金額に含まれません。
供託できるもの
営業保証金を供託(預ける)する場合、「金銭」だけでなく「一定の有価証券」でも供託することができます。そして、一定の有価証券の場合、その有価証券に評価額が異なるので、その点をまとめました。
有価証券の種類 | 評価額 |
---|---|
国債証券 | 額面金額の100%が評価額 |
地方債証券・政府保証債 | 額面金額の90%が評価額 |
その他の省令で定める有価証券 | 額面金額の80%が評価額 |
【例】
額面金額1000万円の地方債証券を営業保証金として供託した場合、900万円の営業保証金を供託したことになる
供託する場所
「主たる事務所(本店)の最寄りの供託所」に本店分と支店分の営業保証金の合計額を、一括で供託します。
【注意点】本店は本店最寄りの供託所に、支店は支店最寄りの供託所に供託するわけではない!
供託時期
■新たに宅建業を営む場合(営業開始までの流れ)
宅建業者は免許をしただけでは、宅建業を営めません。①免許取得後、②営業保証金を供託して、③供託した旨を免許権者に届け出して初めて宅建業を営業することができます。
①免許取得
↓
②営業保証金を供託
↓
③供託した旨の届出
↓
宅建業の営業を開始できる
■届出をせずに営業を開始した場合、「業務停止処分」や「6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金」に処される
供託した旨の届出がない場合の免許取消し
- 宅建業者が、免許を受けてから3ヶ月以内に、営業保証金を供託した旨のの届出をしない場合、免許権者は供託して、その届出をするよう、催告しなければならない
- 催告してから1ヶ月以内に供託した旨の届出をしない場合、免許権者はその宅建業者の免許を取り消すことができます。
【注意点】
供託した旨がないことによる免許取り消しは任意なので、免許取消しにしてもいいし、しなくてもいい
事業を開始したあとに、新たに事務所(支店)を設置した場合
宅建業を開始して、軌道に乗ってくれば、新たに事務所を設置することになります。その場合、新たに事務所(支店)を設置したあと、500万円の営業保証金を供託し、その旨の届出をしたあとでないと、この支店で宅建業を営むことができません。
【注意点】
- 供託先は、本店最寄りの供託所
- 支店を2ヶ所同時に設置する場合は、営業保証金1000万円を供託する(500万円×2)
保管替え
営業保証金を供託したあとに、本店を移転することになった場合、場合によっては本店最寄りの供託所が変わる場合があります。その場合に、供託した営業保証金を、移転先の本店の所在地を管轄する供託所に移し替える手続きが必要です。これを「保管替え」と言います。簡単に言えば、A供託所に預けた営業保証金を、そのままB供託所に移動させる手続きが保管替えです。
保管替えが必要な場合
営業保証金を「金銭のみ」で供託している場合のみ保管替えができます。国債や地方債などの「一定の有価証券」で供託している場合や、「金銭+一定の有価証券」で供託している場合は保管替えができません。
保管替えの手続き
保管替えが必要となったら、遅滞なく、費用を予納して、現在営業保証金を供託している供託所に対して、「移転後の本店最寄りの供託所へ営業保証金を移転させてください!」と保管替えを請求します。
二重供託
営業保証金を供託したあとに、本店を移転することより、本店最寄りの供託所が変わる場合で、上記保管替えができない場合、つまり、「一定の有価証券」で供託している場合や、「金銭+一定の有価証券」で供託している場合は、「二重供託」という方法をとります。これは、移転後の本店最寄りの供託所に、さらに営業保証金を供託し(この時点で、移転前と移転後の2つの供託所に営業保証金を二重で供託している状況)、その後、移転前に供託していた営業保証金を取り戻す方法です。
【注意点】
二重供託により、営業保証金を取り戻す場合、公告は不要
保管替えが必要な場合 | 「金銭のみ」で供託している場合 |
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二重供託が必要な場合 | 「金銭+有価証券」もしくは「有価証券のみ」で供託している場合 |
営業保証金の還付
宅建業者と「宅建業に関し取引をした者」でその取引で損害を受けた者は、営業保証金から還付を受けることができます。
還付とは?
宅建業者が供託した営業保証金から損害(債権)の弁済を受けることをいう
【注意点】
- 広告代理店の広告費用、建物の管理費用、内装業者や電気工事業者の工事代金などが支払われないことによる損害については、「宅建業に関する取引」によって生じた債権ではないので、還付請求できません。
- 宅建業者は還付請求者になれない
(平成29年度の法改正により、還付請求者は一般消費者に限定することになりました。業者間の取引は、不動産取引のプロ同士の取引であり、自らの責任で行わなければならないということです。)
還付請求の流れ
- 還付請求者(損害を受けたもの)は「供託所」に対し、還付請求をする
- 供託所は営業保証金を還付する(還付請求者に渡す)
- 還付したことにより、宅建業者が供託した営業保証金に不足が生じるので、供託所はその旨を免許権者に通知する
- 免許権者は、当該宅建業者に対して不足額を供託するよう通知する
- 4の通知を受けた宅建業者は2週間以内に不足額を供託し、供託後2週間以内に供託書(供託した旨の証明書)を免許権者に届け出なければならない
上記2週間以内に供託しなかった場合、業務停止処分もしくは免許取消処分の対象となる
営業保証金の取り戻し
以下の7つの事由に該当することとなった場合、供託所に供託してある営業保証金を取り戻すことができます。
- 免許の更新をせず、有効期間が満了した場合
- 破産手続開始決定・解散・廃業等の届出により免許が失効した場合
- 個人業者が死亡した場合・法人が合併により消滅した場合
- 免許を取り消された場合
- 保証協会の社員になった場合
- 二重供託をした場合
- 一部の事務所(支店)を廃止したことで、供託してある営業保証金が法定額を超過した場合(超過した部分のみ取り戻せる)
営業保証金の取り戻しの手続き
原則 | 還付請求者に対して6ヶ月以上の期間を定めて公告し、その期間内に申し出がなかった場合、営業保証金を取り戻せる。 |
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例外 | 以下の場合は、直ちに取り戻しができる
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